2019年2月7日木曜日

志子田薫《写真の重箱 2 —アジテートした写真展へのラブレター》

 皆さんこんにちは。志子田薫です。
 前触れもなくスタートしたメルマガですが、お陰様でネットや実際にお会いした方々からご感想を頂きました。この場をお借りしてお礼申し上げます。さて、第1号では元々創刊準備号的な意味合いを持たせるため自己紹介だけで終わってしまいましたが、今回からいよいよ本題に入っていこうと思います。改めてお断りしておきますが、このメルマガに書くのはあくまでも私が実際に写真展などを自分の足を使って見て聞いて感じた事をそこはかとなく書き綴るのが趣旨ですので、実際に展示した側の考えとは相違があると思います。予めご了承ください。



 ところで、先月中旬に中古カメラ販売会「第10回 新宿クラシックカメラ博」が新宿高島屋にて行われましたが、皆さんは行かれましたか?
 私はここ数年この手のイベントには足を運んでいませんでしたが、今回は自分が唯一、数年にわたって参加した写真関係のワークショップで講師を務められた飯田鉄さんがトークショーを行う事に加え、飯田さんを中心とした「バルナック会」のミニ写真展が開かれるという事で買い物というよりは、それら目当てで覗いてきました。しかし改めて世の中には色々なカメラがあるなと驚かされますね〜。
 「クラシック」と銘打っているだけあって、年代物のフィルムカメラが所狭しと並べられていますが、最近のデジタルカメラも勿論あります。今持っているカメラで充分だという人も、歴史の証人となってきたカメラたちを見ると案外色々な発見があるかもしれませんよ。
 主催は違いますが、9月13日〜18日には渋谷の東急東横店で「世界の中古カメラフェア」が開催されますので、ご興味のある方は是非一度足を運ばれてみてはいかがでしょう。あくまでも「沼」に入るか否かは自己責任ですよ!(謎)



 先ほど、中古カメラの多くはフィルムカメラというようなことを書きましたが、逆に言えば新品のフィルムカメラを出しているメーカーは大手では数えるほどしかありません。デジタルカメラの普及によりフィルムの需要が減ってきてきたのはご存知の通り。そんな中で、気になる写真展が最近開かれました。

 原宿のVACANTで開催されたKZM Photo Session 「new old school」展 darkroom.jp (http://darkroom.jp)は写真家の三好耕三氏がキュレーターとなり、日本大学芸術学部写真学科出身のメンバーで構成された写真展でした。彼らのチラシには、昨今のデジタルカメラによる写真の時代を挑発する「デジタル写真は写真ではない」というコピーとともに、以下のような言葉が記されていました。

> デジタル写真は写真ではない。
> 写真に対する情熱、恨み、妬み、嫉み、
> そんなものはデジタル写真に表出はしない。
> 欲望の塊。
> 僕らの写真を見て感じて欲しい。
> 本物への回帰。
>
> 時代を挑発する写真家たちの展示を是非ご高覧ください。
(>部分はサイトより引用)

 私はフィルムもデジタルも使っているので、そこまで言われたら是非とも見に行かねばと行ってきました。

 が、結果として、個人的には、中途半端な感が否めませんでした。
 もちろん一人一人のプロジェクト、そして一つ一つの作品は素晴らしいし、フィルムならではの事をやっている方もいらっしゃったのは間違いないです。

 しかし世界中で、そして国内でもフィルムで撮り続け、作品を発表する人は沢山いるなかで、敢えて「デジタル写真は写真ではない」という挑発的なキャッチコピーを付けて展示するからには、フィルムを使っている人達が『そうだよな』と思え、“デジタル写真”を撮っている人達もこれは参りました!となるようなものでないとならないと思います。それだけのハードルを自ら上げてきた割には、「なぜ、フィルム写真か」という肝心の説得は、あまりにも見る側に委ね過ぎてしまい「やっぱりフィルムはいいよね」と思えても、デジタル写真へのアンチテーゼを唱えるには力が弱かったと思います。

 ただ、彼らは今回をスタートと捉え、一過性ではなく、これからもこのアジテーションを続けていくそうです。
 フィルムやケミカルが自分の力ではどうにもならないというこの世の中で、それでもフィルムで写真を撮り続けて行く決意表明と捉え、彼らの此れからを見守りたいと思います。どうせやるなら、ぐうの音も出なくなるほどのものを見せて欲しい。

 私がここまで書くのは、私なりに様々な写真の展示を見てきているからです。

例えばフィルムで写真を撮っている人の中には、暗室でプリントし、そこで出来た作品を展示する行為だけではなく、あえて縛りを課してみたり、さらなるオリジナリティ、さらなる単一性を求めて試行錯誤している方もいます。

 知人の広瀬耕平さんが手がける「欲視録」というシリーズは、フィルムで撮影したスナップ写真の偶然性に加え、現像したネガに薬剤処理で抽象性を加えるという新たな写真表現を生み出し、作品は海外からも評価されています。

 縛りといえば、前出の「バルナック会」の写真は所謂「バルナック型」「バルナックライカ」と呼ばれるカメラを使って撮影された作品です。
 バルナックライカとは、ライツ社に勤めていたオスカー・バルナックが映画の35mmフィルムを使用して写真を撮影できるカメラを作り、ライツ社のカメラなのでライカと名付けられ、市販第1号機は1925年に発売されました。その後1954年に発売されたM3を始めとする、所謂M型ライカと区別するために、このよう呼ばれるようになりました。

 また、8月の終わりには【駄カメラ写真協会】主催による、メンバーと公募で募集した方々の写真展が、小伝馬町のRoonee 246 fine artとiia galleryの二箇所で行われました。
 ここでいう『駄カメラ』とは、俳優で無類の写真&カメラ好きの石井正則さんが提唱したもので、駄菓子のように懐かしく、気軽に買える廉価なフィルムカメラのことでして、石井さんは駄カメラ写真協会の会長でもあります。ここでも「駄カメラ=『3,000円以内のフィルムカメラ』」というレギュレーション(規則)の中で手に入れた物で、如何に本気で写真を撮りプリント、展示するかということで、有名無名を問わず数多くの方が参加されました。

 南青山のNadar(ナダール)では、9月をフィルム写真月間として位置付け、フィルムが好きな人たち、フィルムを残したい人たちが立ち上げた、その名も“FILM LOVER” http://www.filmlovers.info (http://www.filmlovers.info)というグループの写真展が開催されます。

 フィルムだけではありません。写真の進化の過程で一度は廃れかけた湿版写真や乾板写真で写真を撮り続けている人々もいます。
 大判写真に特化したTOKYO 8x10 Exhibitionという写真展では、今年は大判ネガ(20x24)そのものをプリントの隣に展示したり(これは圧巻でした)何ともいえない漆黒が美しい湿版写真、顔料で着彩した写真などの作品が展示されていました。
 同建物内で同時開催されていた日本針穴写真協会の写真展では、「針穴」つまりピンホールカメラによる作品が並んでいますが、最近ではデジタルカメラの高画素化と高感度化を生かした作品も増えています。

 「写真」というものが世の中に生まれてから、200年ちょっと。その間に様々な技法が生み出されては廃れてきました。つまり写真とは未だ進化の過程なのです。過去、そして最新の色々な技術が使える今の世の中だからこそ、自分の思いを伝えられる写真の方法も十人十色。このような展示が成り立つのです。

 「new old school」展のメンバーは、本気でフィルムでの作品作りに取り組んでいるのですから、まずは身の回りでどのような展示が行われているかを知った上で、それでもデジタル写真へのアンチテーゼを本気で(話題作りの為とは思いたくない)やっていくための創意工夫をこれからも続けて欲しいですね。
 「情熱を込めた写真を見れば、伝わる人には伝わる」というだけでは、他の数多といるフィルムでの製作者からも見向きもされなくなってしまいますよ。

 下手くそな応援歌ですが、これからも彼らを含め色々な写真展を見て回ろうと思います。


 写真展に関してもう一つ。
やはり先月ですが、新宿のフォトギャラリーシリウスで、写真集団獏の「きみの名は」展を見てきました。
 『写真はそこに付随するキャプション(文章やタイトル)が写真の表す意味を変えてしまう』という特徴を逆手に取り、1つの作品に2つのタイトルをつける挑戦的な展示方法でした。
 もちろん「それはちょっと……」と言いたくなるような無理やり付けたタイトルなどもありましたが、見事に写真の意味が正反対になってしまったり全然違う方向性に見えてしまうタイトルを付けている方など、ニヤニヤクスクスフムフムと楽しませていただきました。

 私は普段、言葉が見るものの意識を左右してしまうが故に、写真にはあまりタイトルやキャプションをつけませんが、こういった挑戦も面白いですね。



 さて、今回の発行日は、予定通りに進んでいれば9月1日、防災の日です。
 写真界では、写真家 中平卓馬 の命日でもあります。2015年に亡くなってから丸三年。
中平といえば様々な写真集の他に、記憶喪失前に書かれた「なぜ、植物図鑑か」という著書が有名です。
 内容は映像論集と銘打っているだけあって、当時の写真界や自身の写真、写真と文字との関連性や映画論など多岐に渡ります。しかし今読んでも通じる内容がありますし、今回のメルマガの内容とも少しリンクしています。
 本の詳細についてはここでは語りませんので、ご興味のある方は是非ご一読を。

それでは、また次回(あるのか?)!

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