2019年3月31日日曜日

志子田薫《写真の重箱 5》

 皆様こんにちは。写真、撮ってますか? そして写真を見てますか?
 私は今、横でスキャナがウィーンと唸っている中、このキーボードを叩いています。
 年始に祐天寺の“Paper Pool”にて行われる「135 x 135mm展」に使用する写真を取り込んでいるのです。
 この写真展は、『昔は重宝されていたものの、今となっては普段あまり使われない焦点距離である135mmレンズに光を当て、35mm判フィルムフォーマット(=135mmフィルム)で撮影し、その魅力を表現する』という趣旨なのですが、やはり難しい……

 当時は28mmなど広角よりも、標準域の前後が好まれていたのでしょうか。80年代に発売されていたカメラのキットレンズは35〜105mmが多く、私が最初に手に入れたズームレンズもそうでした。そうなると望遠側も105mmは微妙に物足りなく、当時高校生だった私は個人的に手の届かない距離の物が写せる望遠レンズに魅力を感じていた為、単焦点の135mmに憧れていました。

 私が今回使うレンズは、十数年前に当時錦糸町テルミナの中にあったヒカリカメラさんで購入しました。ジャンク品とありましたが、レンズは綺麗だし、某マウントとそっくりなので使えるのではと浅はかな考えで購入したそのレンズは、とあるカメラの専用レンズとして1950年代に販売されたものでした。
 デジタルカメラといろいろな道具を組み合わせて何とか使えましたが、スマートとはとても言い難いゴテゴテしたシステムになってしまったため、その後このレンズは部屋の片隅で眠っていました。

 近年のオールドレンズとマウントアダプターのブームにより、マイナーなこのレンズ用のマウントアダプターを発売するところが出てきましたので、今年の後半にライカのスクリューマウントに変換するマウントアダプターを購入し、やっとデジタルではスマートに使えるようになったところへ、今回の写真展のお話が出てきました。
 しかし、何を隠そう(別に隠していませんが)、私は所謂フルサイズのデジタルカメラを持っていないので、今回の写真展の主旨に沿うにはフィルムカメラで撮ることになります。今回はライカM6とDIIの双方で撮り歩いてみました。
 ライカというと基本的に内蔵距離計でピントを合わせますが、このレンズとマウントアダプターの組み合わせは距離計に連動しませんから、ファインダーでおおよその見当をつけたら、外付けの距離計で距離を図り、その数値通りにレンズのピントリングを回し、改めてファインダーで構図を確認し撮影するという、なんとも手間のかかる方法になってしまいます。誤差もあるし、距離計にない数値のところで決めるしかない。しかも距離計で距離を測ってからシャッターを切るまでの間に多少の前後差が出てピントがズレてしまったり、ファインダーとレンズとの誤差もあったりして、とてもスナップどころではありません。結局思い通りのものが撮れていたかというと……

 まぁ、今回の撮影を通じて、改めて「撮影内容と機材の組み合わせは重要だ」という、ここ最近のメルマガに書いているような事を実感しています。

 写真展「135 x 135mm展」は、祐天寺 Paper Poolにて、前期は2019/1/10(木)〜1/20(日)、後期は1/24(木)〜2/3(日)の木曜〜日曜に開催されます(月〜水はお休み)。
 私は前期に出展します。末席を汚してしまいますが、ご笑覧いただければ幸いです。

※板橋区大山にあるUP40GALLERY & SANISTAでの公募展「増殖 2018」展にも参加しています。



 さて、12月中旬、メルマガの打ち合わせをしたいという、このメルマガ編集人の鎌田さんからの連絡に、私が指定した待ち合わせ場所は新宿にあるMapCameraの地下一階。
 なぜここで待ち合わせたかというと、前回の「重箱」の内容を受けて、鎌田さんからこんなコメントが届いたのです。

「何故ライカ(あるいはレンジファインダー?)というのは強力な磁力があるのか知りたい。プリント(あるいは画像データ)としての写真だけ見ても、余程のことでもない限り何のカメラで写したかを特定するのは難しいと思うのですが、つまり『綺麗に写るから』だけが『ライカの磁力』ではないわけですよね。そのあたりが知りたいなぁ、と思いました。」

 確かにプリントから“どのカメラとどのレンズの組み合わせか”を特定するのは難しいですよね。レンズの描写に詳しい方なら、どのメーカーのカメラかが分かれば、それに着けられるレンズを推測し、その描写から推測される方もいらっしゃいますが、今はマウントアダプターがありますから、カメラが何れかというのは特定しにくいし……
 そもそも今回のお話はそれとは別の次元です。一体何が惹きつけるのか。それに迫るためには、実際に触れてもらった方が良いのではと考えたわけです。
 MapCameraの地下一階は「ライカブティック」という看板を掲げ、新品・中古のライカを主に扱っているフロアでして、実際にデモ機としてライカや中判デジタルカメラを気軽に試すことが出来るスペースがあります。以前はフィルムのライカも列んでいたのですが、今回は全てデジタルになっていたのが残念でした。

 それはともかく、約束の5分前に行くと既に鎌田さんは到着しており、ライカに触れながら「本物って感じがしますね」と仰いました。
 外観だけでなく、手に触れた時の感覚なども含めて、しっかりと作り込んであること、シンプルな操作系(メニュー内は別としてw)、シャッターのフィーリングなどがそう思わせたのかもしれません。
 鎌田さんはデザイナーであり、ご自身も写真を撮り(それこそ私以上に写暦がある方ですし)レンジファインダーもコシナ製ベッサを使った事があるなど、様々なカメラをお使いになっていますが、やはりそれまでのカメラとは違うと感じたようです。勿論その後新品の価格を知って驚いていましたが……ドイツ車と日本車との違いを挙げ乍ら思った事を話して頂きました。やはり良くも悪くもドイツらしいのかもしれませんね。

 横には富士フイルムから出ている中判デジタルカメラも置かれていて、それはそれで日本の技術の結晶が詰まっていて流石と思いますが、この二つを並べてしまうと両者の違いが感じられます。そして「レンジファインダースタイル」と呼ばれるデザインですが、勿論それは形だけであって、実際にレンジファインダー、つまり“距離計”を使ったカメラではありません。軽くて使い勝手は良いですが、ファインダーはEVFですし、そこには様々な情報が表示されます。欲しいカメラの一つではありますが、素通しガラスのレンジファインダーカメラの様に両眼を開いて撮影した時に、個人的には実物とEVF上の映像に違和感を覚えるので、レンジファインダーではないと割り切って、合理的な道具として、そして「消耗品」として割り切って使う事になるだろうなと思ってしまいます。

 最近のカメラは基本的にフルオートにもなる便利で多機能なものです。中にはトリミングまでオススメしてくれるカメラもありますから、自分はそのカメラを持ってその場に居合わせ、シャッターを押せば良いわけです。動画から切り出す写真ならシャッターすら切る必要はありませんね。

 対してライカは、フィルム時代に絞り優先機能のついた機種が出た事でシャッタースピードこそオートに身を委ねることが出来るようになったものの、絞りとピントは撮影者自身が決める必要がありました、そしてこれはデジタルになった今も変わりません。
 デジタルの時代に入って、ライカも枚数と感度の呪縛から解き放たれたものの、それはあくまでもオプショナルなものであり、実際にはピントや露出など撮影にまつわる総てを使う人間が決めるのが前提なので、フィルムのライカ同様にそれだけ潔いシンプルなデザインを維持できるのかもしれません。

 しかし、物質的な魅力があっても、100%万能なカメラではないという事、レンジファインダーカメラならではの不得意なものも知って欲しかったので、更に鎌田さんには実際に色々操作して頂きました。

 ライカでファインダー内のフレームで切り取った「つもり」の場所と実際に撮影された写真とでは、実際には微妙な誤差が生まれることがあります。これはデジタルのライカで撮るとリアルタイムで確認できるからより簡単に分かりますから、鎌田さんにも体験してもらいました。レンジファインダー機には良くあるこの誤差、高梨豊さんはある撮影とカメラとの組み合わせにおいてこれを「揺らぎ」と考え、受け入れるようになって撮り進めることが出来た作品があるそうです。

 そもそもレンジファインダーに於けるフレームという存在自体が(幾ら補正がかかる機種だとしても)曖昧なものですから、自分が覗いた通りの切り取り方をどうしてもして欲しいと考える人は一眼レフ(もちろん視野率100%のもの)や中判・大判カメラ、デジタルカメラなどで撮れば良いわけです。

 そしてレンジファインダーカメラが実際に報道などで使用されていた頃は、それと一緒に、一眼レフを長玉(望遠レンズ)と組み合わせて撮影する人も多かったようです。というのもレンジファインダーカメラの場合は焦点距離が大きくなればなるほどファインダー内のフレームは逆に小さくなってしまいますし、小さなカメラに組み込まれた距離計の精度上ピントを合わせ辛くなります。これについては距離計、そして三角測量の原理などに触れなければならないので割愛しますが、同様に距離計の苦手な1メートル以内の至近距離のモノなどもレンジファインダーはお手上げです。それに対して一眼レフは長玉であろうとマクロであろうとファインダーには実像しか入りませんから全く問題ありません。「撮影内容と機材の組み合わせ」を使い分けて利用するわけです。
 デジタルのライカになって、ライブビューや外付けEVFを取り付ける事で視野率100%の写真や、長玉やマクロ撮影、ピントを追い込んだ写真は撮れるようになりましたが、速写という面がスポイルされてしまいますから、自分が写真を撮るときに何を求めるかで、使うカメラの種類は自ずと決まってきます。



今回、本当ならば前回の続きで大判写真、4×5や8×10、それ以外のサイズを使う人を書こうと思っていたのですが、ちょっと脇道に逸れてしまいました。次号では本来のルートに戻って進めていきましょう。

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