2019年4月2日火曜日

志子田薫《写真の重箱 6 —ギャラリー巡り》

 皆様こんにちは。写真、撮ってますか? そして写真を見てますか?
 さて、先ずはお礼とお詫びです。
 Up40Galleryの『増殖』、そしてPaperPoolの『135 x 135mm』展(前期)はお陰様で盛況でした。足を運んでくださった皆様、そして気にかけてくださった皆様、ありがとうございました。
 『135 x 135mm』展の後期は2月3日17時まで開催中です。こちらもぜひご覧ください。
 そして前号の『135 x 135mm』展の説明において、自分の文字置換時のミスにより「135フィルム」と書くべき所を「135mmフィルム」と書いてしまいました。恥ずかしいったらありゃしない!/(^o^)\



 さて、年明け早々、『135×135mm』展に出すプリントを出力していた時に、Twitterで興味深い展示を発見しました。それは吉祥寺にある[book obscura]という写真集を専門に扱う古本屋で開かれている「写真集研究展 Vol.3『写真集とカメラ』」と云うものでした。
 昨年知人がここで写真展を開きトークイベントを行ったので、その時に初めてお邪魔したのですが、その時はイベントは勿論、終了後も賑わっていて、取り扱っている写真集をじっくり観る事が出来なかった事もあり、また企画がこのメルマガで書いている内容とリンクしてるじゃないかと思い、再訪して来ました。

 今回は多少時間に余裕を持って…

 結果、やはり時間が足りませんでした(笑)
 古書店巡りや写真展ではよくある事ですが、やはり今回の企画をじっくり観るには開店直後から閉店までいて、それでも時間が足りないだろうなと。写真集をじっくり観ようとすれば、1冊でも結構な時間とパワーを使いますから、当たり前といえば当たり前ですが。

 そして、元々神保町の有名な古書店で店員をされていた経験をお持ちの店主は、流石写真雑誌でも記事を書かれるだけのことはあります。写真集に関する博識さは勿論、「写真集」に対する並々ならぬ愛情を持っており、とても私なんか足元にも及びません。
 我々が某写真集の新旧版に於ける違いとその解釈を巡る印象を話していた時には、後からいらっしゃった常連さんが「そう云う見方もあるんですね」と言いつつ少し退いていた気も…(笑)



 さて、そこでも話が出たのですが、多くの写真家は、様々なフォーマットのカメラを使用しますから、誰をどのカメラで括るかは非常に悩ましいところです。
 4号で触れた高梨豊さんも、多くの代表作はレンジファインダーのライカで撮影されていますが、ライカといっても一眼レフのライカを使うこともあるし、もちろんプラウベルマキナなどの中判や、ジナーなどの大判カメラを使用して作品を生み出しています。
 大判で作品を生み出してきた写真家はといえば、アジェやヨセフ・スデク、アンセル・アダムス、ベッヒャー夫妻、ベレニス・アボットなど多くが浮かびます。しかし時代によっては大判しか選択肢がなかったこともありますので、ここではとっつき易い近年の日本の写真家をピックアップしてみましょう。

 ここに3冊の写真集があります。
 『町』『small planet』『ランドスケープ』
 これらの写真集は、ほぼ全ての写真が大判カメラで撮られています。

 それこそ高梨さんの『町』は、以前も書きましたから、多くは触れませんが、大判特有の細密さで町をしっかりと記録したものです。方法論の一つとして、そして大判特有の写真集として機会があったら是非観てみることをお勧めします。



 2006年に発表した『small planet』で、世の中をミニチュア世界に変えてしまったのは本城直季さんです。

 最近のデジタルカメラやスマートフォンのアプリには「ミニチュア撮影機能」と呼べるようなフィルターが搭載されていることがありますので、お使いになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。これらは本城さんの作品がヒントになって生まれたものです。

 本城さんは、大判特有のティルトというアオリ機能を使って、実際に存在する事物をあたかも「ミニチュアで再現して撮影した」かのような作品は、元々大判を使っていた写真家達からは「別に新しくも何ともない」と言われたようですが、それは結局写真界という内輪の世界でしか考えていなかったからでしょう。
 彼が今まで一般の人が見たことのない新たな世界を見せてくれた功績は大きく、同年度の“写真界の芥川賞”とも呼ばれる木村伊兵衛賞を受賞しました。



 長年に渡って自然界と人工物との際を大判写真ならではの精細さで表現しているのは柴田敏雄さんです。先ほどの本城さんと同じ木村伊兵衛賞を1991年度『日本典型』で受賞されており、2008年には東京都写真美術館で大々的な個展「ランドスケープ 柴田敏雄展」が開催されました。この写真展に合わせて出版されたのが、今手元にある『ランドスケープ』です。
 当時写美の友の会に入会していた私は、特別内覧で作家自ら作品の説明をしてくれるという企画に当選し、その壮大なスケールの写真と対峙しながら柴田さんの話を聞く機会に恵まれました。
 自然界と、ダムなどの巨大な建造物とのせめぎ合い。共存しているようで、でも決して一つになることのないその関係性や、自然の強さと人間の作り出した巨大な力。それらを大判で隅々までピントを行き渡らせて撮影することで、よりその魅力を引き出しています。もともとモノクロでの作品がメインだった柴田さんですが、2000年代に入ってからカラーでも撮影し始めたタイミングでの大々的な個展はとても見ごたえのあるものでした。それにははるかに及ばないものの、写真集からもそのパワーは感じられると思います。



 さて、もう一つ紹介したいのは佐藤信太郎さんの『非常階段東京 -Tokyo Twilight Zone-』です。
 黄昏時の東京という街を、非常階段や建物の屋上などから撮ることによって、街の密度や光が織りなす不思議な秩序を作品にしています。
 これも大判の、それもフィルムならではという作品に仕上がっています。
 近年のスカイツリーの建設から完成までをデジタルで追うことで、新たな歴史の証人となった『東京|天空樹』と見比べると、また違った東京の魅力が発見できます。

 佐藤さんは2月末から「The Origin of Tokyo」という個展を東麻布にあるPGIで開催されます。
 東京の東側を作品のメインとして押し出していた氏が、江戸の中心地であった現在の皇居周辺を中心とした方角に目を向け、また新たな東京を見せてくれそうです。
 おそらくですが、個展会場では過去の写真集も見られるかもしれませんから、それらと本展示での作品を見比べたりしながら、氏の視点の移り変わりと大判とデジタルによるアプローチの違いなども意識して観たいと思っています。

 今回はこの辺で筆を置こうと思います。
 

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