2019年4月30日火曜日

志子田薫《写真の重箱 7 —ギャラリー巡り》

 皆様こんにちは。写真、撮ってますか? そして写真を見てますか?

 私的な事ですが、今号が発刊される頃には仕事場が変わります。今までの仕事場は「町」にあって、それはそれで地続き感があって楽しかったのですが、今度は「街」というか「都市」なので色々と勝手が違います。
 既にその街には数回足を踏み入れているとはいえ、今まで縁がなかった場所ですので、被写体がそこかしこに溢れており、これからが楽しみです。

 さて、いよいよ花粉症の季節到来ですが、皆さまは花粉症は大丈夫ですか?
 私は、二十年ほど前、……思い返すともうそんなに経つのかとゾッとしますが……、発症して以来、この時期はマスクが欠かせません。
 でも、花粉症対策でマスクをつけると、ファインダーを覗く時に接眼部が曇るんですよね……
 以前の一眼レフには寒暖の差が激しくてもファインダーの接眼部が曇らないように、アンチフォグアイピースなどが売ってましたが、今はどうなんでしょう?
 まあ、デジタルカメラなら背面モニターで撮影すればそんな心配は無用ですから、便利になったものです。

 とはいえ、私はいつもの癖でファインダーを覗いてしまうのですがね(苦笑)



 ところで、前回写真集の話を書きましたが、私は首都圏近郊に住んでいる事もあり、写真集目当てで神保町などによく顔を出します。カメラを探しに新宿や銀座、その他の地域のお店に行く事も。古書でも中古カメラでも実店舗がある場合、可能であればお店に出向き、基本的に自分の目で見てから買うようにしています。

 ネットで物を買うときには、内容や商品状態が想像通りの状態かどうか届くまでワクワクドキドキな気分で、想像以上に良い状態だと本当に嬉しいのですが、例えば商品が傷ついて届くのは受け取り側はもちろん送り手側にとっても悲しい。しかもそれが送り主側のミスや商品に対する気遣いのなさから生まれたものであればなおさら。
 書籍を例にとると、表面はもちろんですが、角などは傷みやすく、意識的に保護をしなければなりません。それを怠った状態で送られてきた商品の角が潰れていたら……これは運送業者の責任とは一概に言えないですし、若しかすると販売側が商品確認を怠ったか、既に傷つけてしまった状態のものを発送したのではと考えてしまいます。

 売買された商品にせよ、そして献本や返品の類なら尚更、そのモノを丁寧に扱いたい。最近連続で似たようなお話を聞いただけに、余計にそう思う次第です。



 さて、年末に「このままでは『写真の重箱』というより『カメラの銀箱』になってしまう」と書いておきながら、年明け一発目にもカメラに纏わる話を書いてしまった反省と、そもそも書いている人間からしても、内容がいささかマンネリ化してきた感がありますから、カメラからはちょいと離れて、ここ数年の写真展を取り巻く環境とSNSとの絡みについて思うところを書いていこうかと思います。



 先日、三好耕三さんの「繭 MAYU」を観にPGIへ行ってきました。会期が長いからと油断していたら最終日。こういうパターンが多すぎるので、なるべく早く会期の前半に行かなければと思うのですが、スケジュールの都合でなかなかうまくいきません。会場でバッタリ会った知り合いもいたので、自分だけではないのかもしれませんね。

 写真は16×20インチの大判カメラで撮影されたモノクロームの作品。30点近くはあったでしょうか。
 自然光のみで撮影されたという、繭の入った「蔟(まぶし)」と呼ばれる枠組みが、大判のカットフィルムの枠に綺麗に収められている為、実は蚕がこの印画紙上に絹を吐いたのではと思えるほどのリアリティーで、言葉の綾ではなく本当に思わず触りたい衝動に駆られました。蚕の繭には細かな凹凸があるので、繭の周りに掛かっている糸と共にに様々な光の濃淡を生み出しており、それはとても美しいものでした。

 作家である三好さんご本人がいらっしゃったので少しお話を聞けたのですが、入口脇に掲げられた、蚕達が蔟を這っている写真はシャッタースピードが1/2秒で撮影されたそうです。20枚ほど撮った中で、ほぼ全ての蚕が静止していたのは唯一1枚だけだったとの事です。

 実は蚕は、その成長期は食べているか寝ているか、糞をしているかと言うぐらい忙しなく、そして繭を作る段階になって蔟に載せられてからも首をフリフリ自分の入りたい枠を探しています。そしてやっと自分の枠を見つけたかと思ったら、繭を作るために糸を吐き出しながら身体をクネクネと動かし、繭が完成してその姿が見えなくなるまでのおよそ二日間、誠に忙しく動き廻ります(実際にはその繭の中で蛹になるまでもゴソゴソ動いているのですが)。
 そんな状態ですから、蔟の上で何匹もの蚕がほぼ静止した状態を撮るというのはスローシャッターでは至難の業です。
 しかも大判なので一枚一枚を撮るにはとても手間が掛かります。「お蚕様」のご機嫌を損ねてしまうと良い糸を吐いてくれませんから、養蚕農家もハラハラしながら協力していたのではないでしょうか。三好さんと養蚕農家、そして「お蚕様」との関係性が保たれたからこそ生み出された作品なのでしょうね。

 実は私自身、幼少の頃、親戚筋に養蚕をしていた所がありました。「していた」と書いたのは、やはり多くの養蚕農家と同じように格安輸入品や後継者問題など様々な要因で断念されたからなのですが、ある時その家から夏休みの自由研究を兼ねて蚕を分けてもらい自宅と学校で育てた覚えがあります。当時はうちの近所にも「ドラえもんに出てくるような空き地」や未整地の土地が多く、蚕の餌となる桑も豊富あったので、飼う事ができたのです。
 三好さんの写真を見ていたら、蚕の糞の始末が大変だったことや、桑の葉を食べる「カサカサ」「サワサワ」とした音が昼夜問わず聞こえていた記憶が蘇りました。

 三好さんは今回の展示で、メインとなった蔟の中に整然と並ぶ繭達の写真のみで成立させようとしていたそうですが、先に書いた蔟上の蚕達、そして繭の入った蔟が養蚕農家の床の間に置かれている写真、繭玉が文字通り山になっている写真などを補足的に展示したことで、繭を生み出す蚕と養蚕農家という存在が我々鑑賞者に提示され、美しさの裏に隠された日本の産業の繁栄と衰退を暗に匂わせるような、陰陽のモノクロームにぴったりな展示になっていたと思います。



 そういえば写真展を観に行ったり、参加したりすると、会場の様子を写真や動画で撮影している方に出くわす事があります。私も今回の三好さんの作品はその美しさや感動を留めておきたいなと思いましたが、もちろん撮ることはしませんでした。
 もし本当にそう思うなら、今回の展示の場合、作品は販売されているので買うべきが筋ですしね。

 しかし出展者自身が記録や宣伝の為に撮る事もあるでしょうし、会場が許可している場合、観覧側が自分の記録や後学の為などに撮影する場合もあるでしょう。
 もちろん出展者側からSNSでの掲載許可が出ていたり、むしろ宣伝としてお客さんに会場の様子を撮影してもらい、指定したハッシュタグをつけてSNSによる拡散をお願いする事も最近ではかなり当たり前になってきました。
 今は便利ですよね〜。デジタルカメラやスマホで写真や動画を撮ったり、THETAなどを使う事で一瞬で360度会場全体を撮影したり、アクションカメラとスタビライザー、果ては室内用ミニドローンなどで会場内を縦横無尽に撮影できますからね。

 でも出展者や会場が許可を出していない場合、了解を得ずにネットに載せる行為はまた別次元の問題が発生します。たとえその掲載先がオープンであろうとクローズであろうと。

 以前、展示の搬入が「ほぼ」終わったばかりの企画展の全景や各作品を撮った映像を、まだ展示が始まった訳でもないのに、SNS上にアップした方がいました。
 本人は準備が終わった達成感と、自分が出展している宣伝のためだったのでしょう。不特定多数に向けてではなく、あくまでもその方の友人であれば閲覧できる環境ではあるものの、ほぼリアルタイムで掲載したのです。

 しかし実はその企画は実際に会場に足を運んでもらって展示を見ることで「なるほど」と思ってほしい内容でした。それに加え、そもそもゲスト作家の写真が仮止め状態で掛けられている、完全に準備が終わってない時に撮影されたものだったので、主催者は頭を抱えてしまいました。

 では、主催者は事前にSNSへのアップを禁じていたかというと、「搬入直後に参加者がネタバラシをするとは想像しなかった」とのことでしたし、他の多くの方々も「まさか」という感じでした。
 撮影しアップした方は一足先に会場を後にしていたため、面と向かって「現時点でのアップは困る」「削除してくれ」というわけにもいかず、伝えるタイミングを逃してしまいました。しかもこういう場合相手も悪気があってやっているのではないからこそ、結局うやむやのまま……

 此処で難しいのは、そもそもの写真の特性として「目の前のものを複写」し「他者に広める」という面があります。だから、完全に否定すると目の前にある写真もそもそも「写真」という存在としての立ち位置が問われてしまうという堂々巡りが出てきます。
 その堂々巡りから抜け出すためには、例えば今回の企画展であればその企画自体の趣旨、つまり「写真」という言葉から一歩引いて全体を俯瞰した状態で関係者や鑑賞者に考えてもらう必要がありそうです。
 この辺りについては強要するわけにもいかないし、なかなか結論が出ない問題だと思うので、常日頃から頭の片隅で考えておきたいなと思っています。



 短くしようしようと思いつつ、最初に考えていた内容からどんどん膨らんで、今回も自分の目安をオーバーしてしまいました。一部分でも次回分に取っておけば、頭を悩ますことはないのですがね。

 そんな訳で、今回はこの辺りで。

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