2019年7月16日火曜日

大竹誠《様々な時代の都市を歩く 10 ―90年代の街を歩く3—1995年:カナダのトロントへ「デザイン出前」》

「Today’s Japan展」の会場設営でトロントへ


 日本とカナダの交流を記念して、日本のパフォーミングアート、デザイン、音楽、映画、アートを紹介する催し物。国際交流基金経由、日本デザインコミッティの仕事であった。成田からアメリカ大陸東側のトロントまで14時間の直行便。お初のアメリカ大陸。飛行機の中はエンジンの音もあり眠れない。何度も食事でお腹は膨れたまま。疲れてはいるが夕暮れのダウンタウンへ。大型バイクが駐車するカフェが目に留まる。太い腕に入れ墨のライダーが屋外でビール。いや〜いい風景だ。一緒に飲みたくなる。店内からブルースミュージック。これがまたいける。けだるいそのブルース、人生は味なものと語りかける。
 打ち合わせの仕事場のハーバーフロントセンターへ。オンタリオ湖畔につくられた港湾施設(トラックターミナル、倉庫など)をコンバージョンして人の集まるパブリックマーケットや文化センターとしたものらしい。→展示空間を見学。ガラスや陶芸の工房もある。火を吹いているガラスの釜。展示空間とオフィスもある。片側が全面ガラスのシャッターの通路がある。かつてのトラックターミナルの一部だ。この通路が気に入り、ここも展示空間にと申し出る。広めのホールがメインの展示スペース。隣接地はパワープラントをそのまま生かしシアターになっている。倉庫の連なりは飲食店やアンティークショップとなる。それぞれの建物の形も違うし、平屋のその建物は中へ入ってみたくなる装置だ。日本に帰ってから知るのだが、オンタリオ湖畔の“ハーバーフロント”は再開発地区として世界から注目されていた。→水辺のレストランで昼食。屋外の方が屋内よりも混雑している。水辺からさわやかな風が流れているし、水鳥を見れるし、帆船も近くに停泊中。この帆船を使った子供対象の“サーカスキャンプ”というのがあるそうだ。帆を上げたり下げたりしての操船は共同作業。教育的効果満点らしい。→作業チームのメンバーと夕食。住宅をそのまま活かしたレストラン。メンバーの家に招かれたようでうれしい。食べながら、古い街や、町並みの魅力について話しがはずむ(でも英語も混じるのだから???)。魅力ある街の話をしていたら、「そのような街が近くにあるよ」と通訳さん。食後、近くの住宅街を散歩。車道と歩道が大きな樹木で覆われている。ゆったりとした通りで散歩したくなる。住宅の多くは築100年以上はあるものだろう。ジョージアン様式とかヴィクトリアン様式で、住宅から歩道までの空間が前庭。芝が植えられ、花が咲いている。どの家も塀が低く道路からの見通しがいい。というか親しくなれそうな環境をつくっている。敷地が大きいとこのようにできるのだな〜と思う。カナダでは、庭の樹木でも伐採するときには周りの家の了解が必要だし、古い家を取り壊して新しい家を立てるとなると高い税金をかけられるそうだ。住民たちが古くから育ててきた環境を頑固に守る姿勢があり驚いた。玄関と隣室は道路から中を覗ける。玄関ポーチに座り通る人に声をかける人もいる。隣室の中でバグパイプを演奏している姿が見える。
 ホテルの机に持参したミニ製図板と三角スケール、三角定規を置いて展示会場の図面を書き出す。ホテルの照明は薄暗かった。目を図面に近づけての作業。「デザイン・サンプリング」された日本のデザイナーの作品、110点あまりを配置展示しなくてはいけない。 基本パターンは60cm角の透明な立方体に入れる展示。ホールにはこれを並べ、下見で気に入った通路にも並べてみる。ポスターも展示するので、この通路の上部にぶら下げることにする。下には透明な展示ボックス、上にポスターという具合に。即席でなんとか図面を仕上げた。翌日、図面を持って打ち合わせ。一晩で図面を仕上げたのでカナダの担当者は喜んでくれた。片言の英語を交えながら制作担当者ともディスカッション。質問が来たときには、その都度スケッチを書く。そのスケッチを見ながら細部など確認してゆく。スケッチがあるので担当者も、言葉では十分通じないが、納得できるようだし、親しくなれた。それらを元にカナダ側は制作となる。→打ち合わせのオフの日に、トロントの街を散策。古めの建物と新しい建物が混ざっている。ビルの壁には洒落た落書き。高さ553.33mの自立式トロントタワーにもあがる。当時世界一高かった。地上342mのフロアーは、ガラス張り。真下の街が見えている。恐ろしい限りだ。歩くのが怖い。一歩一歩進んでみる。時差ボケがすっ飛ぶ感じだった。

「Today’s Japan展」のオープニングへ


◎スケッチと図面を元にカナダ側の担当者たちが制作してくれたものたちが並び出す。ほぼ予定通りの仕上げだ。そして、オープニングとなる。高円宮もやってくる。宮さんはトロントの大学にも所属していた。夜は晩餐会となる。ホテルでレンタルのタキシードに着替え会場へ。大きな丸いテーブルにカナダ側と日本側が混ざって着席。両隣から英語で話しかけられる。これが困った。何を飲んだか、何を食べたのか怪しい。一緒に行った友人も同様にコミュニケーションしにくいので困った表情。→ある晩、通訳など手がける、エイデルマン・敏子さんとジェイコブズさんの話しをしていたら、「向かいに住んでいるわよ」となり実現。『アメリカ大都市の死と生』を書いたジェイン・ジェイコブズさんだ。ではということでジェイコブズさんの家へ。ビクトリアン様式の建物で、玄関ポーチを入った所がリビング。大きな体のジェイコブズさんが挨拶に。旦那さんのボブさんは建築家。その時、ジェイコブズさんの年に関わる活動の一端を聞いた。「トロントで大雪があった日、家の前にトラックが止まり、運転手は道路の雪をジェイコブズさんの家の方へかき出した。ジェイコブズさんはそれを見て、表へ出てゆきクレームをつける」。「運転手が元の通りにするまで腕を組んで道路上にいた」。自分だけよければいいという考え方を問題にしたのだろう。都市の調査をしながら、市民のための街づくりを唱えてきた人の活動の迫力を感じる。静かに話す優しい人だった。日本のジグソーパズルが好きな様子で、理由は、小さなチップをはめ込む作業が、都市の問題を一つ一つはめ込む作業と似ているからだそうだ。そして、美しい画面が現れる。

◎トロントには「ファクトリーシアター」がある。かつての工場建築を劇場として使っている。現役のビール工場で開かれるコンサートもあった。ビール酵母の香りが充満しアルミの大きなビール樽の並ぶ工場だ。床はコンクリートのまま。ガラス屋根に反射する音響効果もあって、いいライブの体験。街にはこのような活用できる空間があるのだなと思う。

◎“ムースプロジェクト”に遭遇。カナダに生息する大きなムースを原寸大(2mぐらいある)で作り、それを街の中200カ所に置くプロジェクト。型抜きされたプラスチックのムースの表面はそれぞれのアーティストが彩色デザイン。制作費はスポンサー。そして場所の提供者。したがって作品には、アーティスト名、スポンサー名、場所提供者名が並列されている。街のあちこちに設置されたムースを見ながら街を散策するのは面白い仕掛けだ。プロジェクトのムース地図も準備されている。ムースを探しながら、自ずと街を知り、学ぶトレーニングになるところが画期的であった。

◎「Today’s Japan展」の2年後(1997年)再びカナダへ。バンクーバー経由でカナダ東端のハリファックスへ。タイタニック号沈没の際、多くの遺体が流れ着いた街でもあった。「カナダ政府主催のアジア・パシフィック年の「アジアの力(The Energy of Asian Design)」展の会場デザインである。企画内容は、アジアのグラフィックデザインを一堂に集めたもので、日本からは、勝井三雄、木村恒久、杉浦康平、平野甲賀、佐藤晃一、原研哉。台湾からは、LiuKai、Huang Yung-Suug、韓国からは、ahn Sang-soo、香港からは、Alan chan、Kan tai-Keung、Freeman Lau、中国からは、Wang Xu、インドネシアからは、Hermawan Tanzil。展覧会は回遊式で、皮切りがハリファックス。そのあと、トロント、アルバータへ巡回する。→日本の7人の作品を会場で展示する。木村恒久さんは、CG処理した現代社会風刺のフォトモンタージュ作品だが、担当者が成田から飛び立つ途中で作品を手渡してくれた。最後の最後まで手を入れるその姿勢には頭がさがる。担当者はヒヤヒヤものだが。ハリファックスの古く建てられた数棟の建物をつないでアートスクールとしているスペースが会場。教室を見せてもらう。古い建物ゆえ、階段は狭い。階段もいろいろ、床面の段差もあちこちにある。コンバージョンゆえに、補強の鉄骨などが教室内に露出していて興味がつきない。階段踊り場の狭小なアトリエ(2畳ぐらい)もあり変化に富んでいる。迷子になってしまいそうだ。授業は大小の部屋を巧みに使いながらやっているようだった。そして、校舎は24時間学生に解放されていると聞いて驚く。自主運営なのだ。街の中心に位置しているので、すぐ近くにはカフェやライブスタジオもある。このカフェでランチをとりながら、展示に携わったカナダの教授助手と学生たちは対等に、かつ真剣に議論をしている。日本の大学と違うのが印象的であった。

2000年に再びカナダへ


「E-12 生きるためのデザイン」という展覧会の設営でトロントへ。21世紀のあり方を、カナダと日本のデザイナーが、それぞれ二人のチームを組み、それぞれの国のやり方で表現する展覧会。カナダ側のキュレター、ラリー・リチャーズさんとともに手がける。日本チームは、木村恒久+布野修司、真田岳彦+鷲田清一ほか。これも巡回展で、モントリオール、トロント、バンクーバー、名古屋デザインセンター、カナダ大使館ギャラリーの5箇所開催。事前にそれぞれの会場のレイアウトなど打ち合わせを済ませる。同行した真田岳彦さんは、「プレハブ・コート」という作品。コートにチャックをつけて何枚かのコートを繋げば、一緒に歩けたり、非常時のテントになったり変化してゆくというものであった。それを天井から吊るした。斬新な作品であった。

バンクーバーへも


 訪問した美術大学(エミリー・カー)はバンクーバー港の島にあった。一体は大きな食品市場があり、市場と一体化して再開発された場所。キャンパス内にはかつて使われた港の貨物線のレールが路面に残る。海辺にはボートハウスも並んでいた。そのような環境の中にあるキャンパスは刺激的。暮らしと一体化する中から、デザインやアートの思考が展開できそうだった。

0 件のコメント:

コメントを投稿