2019年1月24日木曜日

松村喜八郎《映画を楽しむ 3 ―我が愛しのキャラクター列伝①》

 9月から10月にかけてWОWОWが007シリーズ全24作一挙放送をやっている。最新作「スペクター」の初放送に合わせた企画で、以前にもやってくれた。シリーズのうち、気に入っている何作かは録画して保存してあるのだが、こういうことがあると、やっぱり放送を観てしまう。
 ジェームズ・ボンドというキャラクターの魅力である(とくにショーン・コネリー)。作品が面白いことが大前提ではあるものの、キャラクターに惚れ込むと何度でも観たくなるし、飽きるということがない。今後しばらくは、そんなキャラクターについて書かせていただく。ただし、ダーティハリーことハリー・キャラハンや寅さんのようなビッグネームは取り上げない。改めて書く必要もないと思うので。

デューク・ソーントン/1969年「ワイルドバンチ」


 サム・ペキンパー監督の傑作西部劇に登場する、強盗団〝ワイルドバンチ”追跡チームのリーダー格の人物である。演じたのはロバート・ライアン。かつてはワイルドバンチの仲間だった。頭のパイク(ウィリアム・ホールデン)とは気心の知れた仲である。だが、逮捕されて獄中の身となり、パイクたちを捕まえることができたら自由にしてやると約束さ
れ、追跡チームに加わった。
 冒頭、騎兵隊を装ったワイルドバンチがメキシコ国境の町に現れ、鉄道管理事務所を襲う。大量の銀貨が保管されているという情報を得ていたからだが、これは鉄道会社が仕掛けた罠で、待ち伏せしていたソーントンたちと激しい銃撃戦となり、一味は辛くも逃走する。失敗したというのにソーントンの表情はホッとしているようにも見える。パイクたちが好きだ。捕まえたくはない。それに追跡チームの連中の下品さも我慢ならない。でも、獄中生活はこりごりだ。ソーントンの心中は複雑だ。
 この後、映画の舞台は革命の真っただ中にあるメキシコに移り、武器を積んだ軍用列車の襲撃、計画を察知していたソーントンたちとの攻防戦を経て、マパッチ将軍が率いる政府軍との壮絶な戦いで終わる。パイクたちが無謀な戦いに挑んだのは、マパッチ将軍の愛人を射殺したエンジェルが捕らわれていたから(その愛人はエンジェルの恋人だった)で、死を賭して仲間を救おうとした。その男気……。ソーントンは重機関銃の引き金に手を掛けたまま死んでいるパイクに近寄り、感慨深げに見つめる。追跡しながらも、心情はいつもパイクたちとともにあったソーントン。パイクと一緒に戦って死にたかったと思っているようでもある。
 壁に背を持たせてうずくまり、動かないソーントン。そこへやってきたのはワイルドバンチの仲間だったサイクス老人。一目でワルと分かるメキシコ人たちを引き連れている。負傷してパイクたちと別行動をとっていたサイクスは、山賊と遭遇して頭になったらしい。「一緒に来ねえか?」と誘われたソーントンが微笑みを浮かべ、のっそりと立ち上がる。馬に乗って荒野の彼方に去っていくソーントンの後ろ姿から、山賊として大暴れしてパイクの後を追ったに違いないと勝手に想像した。
 20世紀初頭、滅びゆくアウトローたちを描き、スローモーションを効果的に使った斬新な演出が評判になった。それも確かに魅力的だったが、私にとってはデューク・ソーントンあってこその永遠の名作である。

フランツ・プロップ/1968年「さらば友よ」

「荒野の七人」や「大脱走」で注目され始めていたチャールズ・ブロンソンがフランスに渡ってアラン・ドロンと共演し、その人気を決定づけたキャラクターである。傭兵を生業とするプロップはアルジェリア戦争が終わり、フランス兵とともにマルセイユの港に降り立った。次の稼ぎ場所としてコンゴを考えていたプロップは、軍医のバラン(ドロン)を誘う。そっけなく断られるのだが、どうしても医者が欲しいので簡単には諦めない。そうこうするうちに、バランはパリの広告会社に出入りするようになる。表向きは社員の健康診断医、本当の狙いは、マルセイユで声を掛けてきた女が横領した債権を金庫に戻すためだった。健康診断は地下にある金庫室の隣りで行われるので、医者なら侵入しやすい。クリスマス休暇の前日、社員が全員退社していよいよ計画実行というその時、会社に忍び込んでいたプロップが現れる。
「なぜ俺に付きまとう?」
「うまい話の匂いがするんでね」
 そうプロップが言う通り、女が良心の呵責から債券を戻そうとしているのか疑わしい。金庫には休暇明けにボーナスを支給するための大金が入れられたばかりなのだ。
  ストーリーを書くのはここまでにしておく。古い映画とはいえ、巧妙に仕組まれた犯罪計画を書くのはルール違反になる。この映画の魅力は男の友情だ。
 オルリー空港で、警察が張り込んでいることを察知したプロップは、わざと騒ぎを起こして注意を惹きつけ、バランを逃がす。警察に厳しい尋問を受けてもバランのことは全く知らないと言い張り、口を割らない。話せば罪を軽減してやると取引を持ち掛けられてもなお、バランとの関係を否定する。そのしたたかさに業を煮やした警部が手を突き出し、「一発見舞ってやろうか」と脅しても「生命線が長いな」と動じない。悪党なりの仁義を貫くカッコよさに惚れ惚れした。
 プロップとバランの共犯だと確信している警部は、それとなく二人を引き合わせて反応を窺う。だが、バランはプロップを見て「誰だ?」と表情を変えることなく聞く。この後の場面が最高だった。プロップが刑事のタバコを取り上げて口にくわえる。すると、バランが近寄ってきてマッチの火を差し出す。プロップはバランの手を包み込むようにしてタバコに火をつけ、うまそうに煙を吐く。そして二人は一言も話さないまま別れるのだ。おそらくは「さらば友よ」と思いながら。映画史上に残る名ラストシーンである。
 男の友情とともに忘れられないのは、プロップが何度かやってみせる遊びだ。満々と水
を湛えたコップの中にコインを1枚ずつ落としていき、水を溢れさせずに5枚入れることに成功すれば勝ち。表面張力を利用した遊びで、プロップは慎重にコインを落としていき、成功すると「イエー」と会心の呟きを漏らす。お金を賭けているとはいえ、殺伐とした世界に生きていながら無邪気な遊びに興じるところにプロップという男の人間性が垣間見えた。
 ジャン・エルマン監督の最高作。いや唯一の成功作と言った方が適切かもしれない。イテン入れの遊びを真似した人が多かったそうで、私もやった。

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